「数学は、学生までのもの」
「入試で数学を乗り切れば、もう一生使うことはない」
ひょっとしたら、そう考えている人は多いのではないでしょうか?
価値観は人それぞれなので、もちろんそのような考えを否定するつもりはありません。
ただ同時に、社会人経験を積んだ方からこのような声を多く聞くことも事実です。
「今になって、数学の重要性や必要性がわかってきた」
「今になって、若い頃にもっと数学を勉強しておけば良かった、と思う」
このように話す方々の中には、「ビジネスに数学は必要だ」という隠れた声があることは確かでしょう。
では、そのような人たちにとっての「数学」とは一体何でしょうか?
また社会経験を積んで数学の必要性を感じた、その理由・背景はどこにあるのでしょうか?
このテーマについて、ずっと数学に携わってきた私が述べてみようと思います。
そもそも、「数学」とは何でしょうか?
あるいは少し言葉を変えて、「数学」とは何をすることなのでしょうか?
そこから掘り下げていきたいと思います。
一言で「数学」と言っても、そこにはいろんな要素が含まれています。
すぐに思い浮かぶのは、数字を扱うこと、そして計算することでしょう。
少し考えてみればすぐわかる通り、数字を抜きにビジネスをすることは不可能です。
ビジネスの根幹である、売上、費用、利益はぜんぶ数字で表記されます。
足し算、引き算、掛け算、割り算、いわゆる四則演算は、数字を扱う基本です。
いくら数学が苦手といっても、基本の計算ができないことには、円滑にビジネスをするうえで大きな支障が出るは間違いありません。
四則演算から少し発展すると、「割合」という概念が出てきます。
これは、ある基準に対する比率のことです。パーセント(%)でよく表されますね。
割合を使うと、基準が違うものについて比較検討をすることができます。
割合はビジネスで数字を扱う上で非常に重要な数学の概念ですが、もしかしたら苦手にしている人もいるかもしれません。
ちなみにこのベースは、小学校5年生で習います。
数字の扱いをさらに発展させていくと、仕訳、簿記、財務諸表といったやや専門性の高い分野に移っていきます。処理の仕方は複雑になっていきますが、使っているのは基本的な四則演算です。
また、基本的なデータの分析も、数字の扱いの範疇と言えるでしょう。
このように、ビジネスで頻繁に行われる「数値計算」は、数学のひとつの大きな側面として挙げられます。
「数学が苦手」という人の中には、数学をこのようなニュアンスで捉えている人も多くいることでしょう。
ところが「数学」でやること(やってきたこと)は、数値計算だけではありません。
実は、「数学」という行為の中にはもっと多くの重要な要素が潜んでいるのです。
それは、たとえば以下のようなものです。
- ものごとを論理的に考えること
- 状況を正確に捉えること
- 条件を重要なものとそうでないものに分類・整理すること
- 与えられた条件から、仮説を立てること(未来を推測すること)
- 考えられるいくつかの方法をシミュレーション(試行錯誤)すること
- ひとつの具体的な例から抽象化し全体を捉えること
- 普遍的な事実から、個別具体の例を抽出すること
- 推測が正しいかどうか検証すること
- 自分の理解を相手が理解できるように示すこと
- ひとつの問題に対し、根気強く考え続けること
いかがでしょう?
これが「数学」です。
さて、今回のテーマは「ビジネスで数学が必要なのはなぜか?」でした。
先に上げた合計10個の項目をもう一度見返してみてください。
このどれもが、ビジネスで使うスキル、ビジネスで成功するするために必要な能力、と言われても、異論はないではないでしょうか?
ここに挙げた10個の質問に対し、当てはまるかどうかをYESかNOで答えたとして、YESが多い人ほど、仕事ができそうではないですか?
言葉を変えれば、「頭がいい人はどんな人ですか?」という質問に対して、その答えはきっとここに挙げたようなものになるのではないでしょうか?
つまり、「ビジネスで求められるスキル、能力」と、「数学で求められるスキル、能力」は実はかなり似ているということなのです。
ですので、「ビジネスで数学が必要なのはなぜか?」に対する答えとしては、「数学をすることが、ビジネスで必要なスキル・能力を高める」から、ということになります。
社会人経験を多く積んだビジネスパーソンは言葉にはできなくても、おそらくこのようなことを感じ取っているのだと思います。
それこそ、数々の経験を積んだ「デキる」ビジネスパーソンほど、数学の重要性を肌感覚として感じているのかもしれません。
さて、ここからが私が本当に伝えたいことです。
「数学の力は、今からでも十分に伸ばすことができます」
いやむしろ、多くの社会経験を積んで、肌感覚として数学の重要性を感じた今こそ、人生で最も数学を学ぶのに適している、とさえ言えます。
そして、かつては受け身で義務感からやっていたかもしれない数学ですが、そんな数学を自発的に「やりたいからやる」という大逆転が起きたわけです。
あなたにとっての「数学」がより晴れやかなものになり、ビジネスパーソンとしてのあなたの大きな武器になることを願っています!